「4月から課長だ。」
上司にそう告げられた瞬間、頭が一瞬真っ白になった。
昇格試験に合格し、ほっとしていた矢先だった。
ポストが空いていることは分かっていたし、薄々そうなるかもしれないとも思っていた。それでも、実際に言葉にされると、嬉しさより先に押し寄せてきたのは“不安”だった。
承諾確認というよりは、ほぼ決定事項。
その場では「お願いします」と答えたものの、心の奥はざわついていた。
家に帰り、家族に報告するととても喜んでくれた。
その笑顔を見ながら、私は別のことを考えていた。
「これから、自分の生活はどう変わるのだろうか。」
38歳。会社では3番目に若い課長だった。
技術者から管理職へ。立場が変わるという現実
私が勤めているのは、数千人規模、売上1,000億円超の企業だ。
その中の比較的新しい事業部で、技術部門を担当している。
課長になる前、私は現場の技術者だった。
設計をし、試作をつくり、評価を行い、生産準備まで自ら手を動かしてきた。
しかし課長になった瞬間から、仕事の質は一変した。
自分で手を動かすことは、ほぼなくなった。
代わりに増えたのは、
・開発テーマの進捗管理
・クレームや突発案件の対応判断
・予算と納期の管理
・人員配置の調整
いわゆる「管理」の仕事だ。
さらに、任されたのは赤字事業の技術課長というポジションだった。
会社は投資をしてくれている。
だが同時に、早急に黒字化することも求められている。
経費は絞る。
しかし開発スピードは落とせない。
その舵取りを、38歳の自分が担うことになった。
課長昇進後の、本音の不安
不安は大きく3つあった。
1. 意思決定を間違えないか
赤字事業での判断ミスは、そのまま損失につながる。
製品不具合。
クレーム。
納期遅延。
もし自分の判断で赤字が拡大したらどうするのか。
自分の決断で、派遣や請負のメンバーの契約が打ち切られることになったらどうするのか。
数字への責任と、人への責任。
その重さが、想像以上だった。
2. 年上部下との関係
部署には年上の部下もいる。
これまで指示をもらう立場だった相手に、今度は自分が指示を出す。
うまくやれるのか。
ついてきてもらえるのか。
正直に言えば、職人気質で柔軟性に欠ける場面もあった。
その人たちをまとめられるのかという不安は、常にあった。
3. 自分は本当に実力で昇格したのか
ポストが空いていた。
タイミングが合った。
それだけではないのか。
「実力ではなく、枠に当てはめられただけではないか。」
周囲からそう見られているのではないか。
そんな疑念が、心のどこかにあった。
さらに、家庭との両立も不安だった。
帰宅時間は遅くなるかもしれない。
休日も仕事をすることになるかもしれない。
子どもが自立するまでは、会社員として全力を尽くしたい。
そう思っているからこそ、仕事が家庭を圧迫しないかが気がかりだった。
1年経って分かったこと
課長になって約1年が経った。
今振り返ると、不安の正体が少し見えてきた。
昇進直後、私は部長にこう伝えた。
「適切な判断ができるか不安です。」
すると部長はこう言った。
「判断は間違えることもある。間違えたら、素早くリカバリーすればいい。」
この言葉に救われた。
意思決定は、間違えることがある。
重要なのは、間違えないことではなく、間違えた後にどう動くかだった。
実際、判断を誤ったこともある。
だが、その都度リカバリーを重ねるうちに、心は次第に動じなくなっていった。
気づいたのは、不安の原因は「能力不足」ではなく「視座不足」だったということだ。
場数が足りなかった。
経験が足りなかった。
それだけだった。
課長の本当の役割
課長は、オールラウンドプレーヤーではない。
すべてを自分でやる人ではない。
業務を円滑に回す「調整役」だ。
・誰に何を任せるか
・リソースをどう配分するか
・負荷バランスをどう整えるか
自分が一番詳しくある必要はない。
有識者に任せる。
出てきた選択肢を整理し、判断する。
そして間違えたら、素早く修正する。
人に任せることに慣れたとき、不安は少しずつ消えていった。
今、昇進を控えている人へ
もしあなたが「課長昇進が不安だ」と感じているなら、それは正常です。
怖いと思えるのは、責任を理解している証拠です。
むしろ、何も感じないほうが危うい。
課長は完璧である必要はありません。
適材適所に任せる。
間違えたらリカバリーする。
それを繰り返す。
それで十分、やっていけます。
私も、いまだに不安はゼロではありません。
それでも今日も、判断をし、任せ、修正しながら前に進んでいます。
38歳で課長になった日の怖さは、今も忘れていません。
だからこそ、あの日の不安は、無駄ではなかったと思っています。
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※「近日公開」
管理職になったばかりの頃、私は不安を減らすために何冊も本を読みました。
参考になった書籍は別記事でまとめています。
